【開催報告】産学協働イノベーション人材育成シンポジウム2024

2024年11月12日(火)に産学協働イノベーション人材育成シンポジウム2024イノベーションにおける『技術の軌道』形成~研究者コミュニティの役割~ を開催いたしました。

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第1部 開会挨拶、来賓挨拶、基調講演、講演

第2部 C-ENGINEの活動について、研究インターンシップ参加学生報告、パネル討論、閉会挨拶

 量子技術は安全保障に影響を与える技術の一つとして、世界の主要な国々で独自技術の開発が急がれ、その産業化や新産業創出に向けた様々な取り組みが行われています。日本では、量子技術に対する官民双方の注目・期待の高まりが比較的遅かったことで、量子エコシステムの本格的形成はこれからという状況です。また、量子コンピューターは、材料の設計・開発などを通して世界をドラスティックに変革するポテンシャルがあります。しかし、量子コンピューターの技術は量子力学の制御においてまだ発展途上にあり、一般にはほとんど理解されていないとも言えるのではないでしょうか。
 C-ENGINEでは、量子コンピューターなどの未踏領域における技術開発と人材育成の一体的取り組みは、知識のストックの増加と多くの優れた成果が期待できるとともに、イノベーション創出の観点からも非常に興味深いと考えております。
 本シンポジウムでは、半導体レーザーの開発において、1980年代に日本が世界的リーダーとなる過程についての知見をもとに、量子技術を含めたイノベーション創出に必要な環境形成についてご講演いただくとともに、量子技術という新たな領域において必要とされる人材の育成を産と学がどのように連携すべきか、またそういった活動を通しての量子技術イノベーションに向けたエコシステムの形成について議論いただきました。


基調講演 「汎用性の高い技術のイノベーション: どのように価値を生み出していくのか」

清水 洋 先生(早稲田大学商学学術院 教授)

●基調講演では、「汎用性の高い技術(ジェネラル・パーパス・テクノロジー、以下GPT)」の軌道 形成についての日米比較から、量子コンピューター等の新技術がGPTとなるための課題と、価値 創造に繋げるための戦略的考え方についてお話いただきました。

 蒸気機関などのGPTは広範な応用可能性を持つ基盤技術として位置づけられます。GPTを育てるためにはスピンアウトと累積的イノベーションが重要といわれています。このスピンアウトが技術の軌道形成に及ぼす影響について、半導体レーザー開発を例に解説いただきました。
スピンアウトはイノベーションのための重要な経路です。しかしながら、スピンアウトの促進により流動性のみが高まると、GPTが未成熟なまま経営資源が応用・開発に移り、基盤技術開発が早期に収束するリスクがあることを、米国の事例からご説明いただきました。
 流動性を高めることはイノベーション創出にとって重要であるものの、GPTの成熟を考慮するのであれば、スピンアウト・流動性を高めることと並行して、基礎研究・基盤技術開発にも力を入れる必要があります。大学・国の研究機関、大企業の中央研究所等で基盤技術開発の担い手をしっかり確保すること、さらには失敗事例を共有する研究コミュニティの存在も同様に重要であることをご指摘いただきました。
日本企業は雇用保護が強く、新規性の高い技術を早い段階で内製化するのはリスクが高いと考える傾向にあります。そこで重要なのが企業の外部からの技術吸収です。すべての技術を並行で開発することは現実的ではないため、技術の目利き能力が重要となります。目利きの能力向上には、自社内部の研究開発と博士人材活用割合が重要であることと、C-ENGINEの研究インターンシップのような博士学生の教育プログラムを、企業側への知識移転としても活用できるのではないかというご提案をいただきました。
 最後に、今後量子コンピュータが経済的価値を生み出していくためには、顧客が享受する価値を左右するモノ、自社の利益が依存するものを無効化/解消するモノになれるかどうか、または生み出せるかどうかが重要という視点をご提示いただきました。

講 演 「量子人材を創出するエコシステム」

高椋 章太 様(株式会社QunaSys Chemical Research Solution事業部長) 

●講演では、量子コンピューター開発の動向、そしてユースケース探索と人材育成の 観点から展望を ご説明いただきました。


 量子コンピューターは、古典コンピューターとは異なる原理に基づく計算機で、その可能性が期待されています。QunaSysでは、ユーザーが量子コンピューターを活用するためのソフトウェアを開発し、量子コンピューターそのものの価値を広く提供するための事業を行っております。誤り耐性コンピューターの実現には、まだまだ時間がかかると思われますが、そこに至る手前の段階の量子コンピューターにも取り扱える問題があるのではないかということで、日夜研究が進行しております。国内外で投資が活発化している量子コンピューターのハードウェア/ソフトウェア開発進捗についても解説をいただきました。
 量子コンピューターと古典コンピューターでは得意な計算が異なるため、当面は問題に応じて双方を併用することが想定されており、量子コンピューターが優位性を持つ問題を抽出する必要があります。例えば量子科学計算や、機械学習、微分や金融シミュレーション等が検討されていますが、実際の産業界の課題における価値提供ができるかどうかが重要であり、そこには計算で価値を生み出すためのDXの課題と、自らの競争領域で事業競争力となるような問題を探すユースケース探索が鍵となることが強調されました。特にユースケース探索においては、ユーザー自身が量子コンピューターの事業上のインパクトを見通し、量子コンピューター関連の技術的知見を随時更新することが求められます。また同時にそれらを事業に適用できる「つなぐ」人材の育成も重要であるとして、量子コンピューター活用の企業コミュニティ(QPARC)や、学生と企業で交流しながらユースケースを探索していくインターンシッププログラムの取組みなどをご紹介いただき、先端領域における研究開発と人材育成という両面のアプローチとしてのインターンシップの可能性をご提示いただきました。

C-ENGINE研究インターンシップ学生体験報告

●東京科学大学 × 京セラ株式会社     
東京科学大学 物質理工学院 材料系・材料コース 博士後期課程3年 金子 健太 さん 

研究インターンシップへの参加のきっかけは、履修上必須だったこともありますが、大学のサポートを受けて参加できるという安心感があったことが大きいです。私自身はレーザーで薄膜を作成し、その薄膜に紫外線を照射して物性や構造の分析・解析を行なっています。今回は、私の研究の応用先の一つであり、エネルギー問題解決にも貢献したいと思い、太陽電池に関するテーマに応募しました。当初は膜装置を使って太陽電池を作成する予定でしたが、実際には太陽電池装置の特性劣化の原因究明に取り組みました。結果的に専門外のテーマに取り組めたことが自分にはプラスだったと思います。熱圧着後の特性劣化に関する課題で、ほとんど劣化しない条件を発見することができ、劣化の仮説を立証するところまで達成しました。専門外の分野でも、自分の研究遂行能力が通用するという自信につながった一方で、現在の自分自身の課題が明確になったとともに、企業で働くイメージも明確になり、今後のキャリア選択の大きな助けになりました。

●奈良女子大学 × 株式会社竹中工務店
奈良女子大学 大学院人間文化総合科学研究科 自然科学専攻 博士後期課程2年 原 直子さん 
キャリア開発支援本部で博士号取得後のキャリアを相談した際にC-ENGINEを紹介いただいたのが研究インターンシップへの参加のきっかけです。大学では河川生態系を専門とし、水生昆虫を対象に野外調査をしています。関心が持てるキーワードを発見し、すぐに応募しました。
実際に取り組んだ内容は、自然共生サイト取得支援ツールの開発です。自然共生サイトとは、生物多様性の保全に貢献する区域として環境省に認定を受けるシステムで、この認定取得のために様々な基準をクリアする必要があります。これを企業や自治体が少ない負担で達成するための支援ツール開発に関わり、一定の結果を得ることができました。新しいスキルを得ることができただけでなく、ゼネコン・民間企業ならではの視点に触れ、自身の研究分野と社会との架け橋になるようなキーワードを深堀りすることができました。参加前に感じていた将来への不安が、専門以外の自分の長所の再発見により解消されたことも私の中では大きな成果となりました。

パネル討論 「イノベーションにおける『技術の軌道』形成と研究者コミュニティ」

●パネル討論では、量子コンピューターの現状や、未踏技術に対する企業の捉え方と経営判断、 量子コンピューターにおける人材育成について議論いただきました。

※ファシリテーター
國府 寛司 先生(京都大学 理事・副学長/C-ENGINE会長)
※パネリスト
清水 洋 先生(早稲田大学商学学術院 教授)、高椋 章太 様(株式会社QunaSys Chemical Research Solution事業部長) 
古藤 悟 様(三菱電機株式会社 開発本部 技術統轄)、吉川 正人 様(東レ株式会社 理事 医薬研究所長) 

 量子コンピューターの現状や、未踏技術に対する企業の捉え方と経営判断、量子コンピューターにおける人材育成について討論が行日本においての国家戦略として、量子技術活用は今後のイノベーション創出に必須であり、量子技術や量子コンピューター開発支援により、イノベーション創出基盤が構築されていくビジョンが提示されています。一方、量子コンピューターはその汎用性がまだ明確とは言えないという課題があります。
 企業における新技術・未踏領域の研究動向として、古藤様、吉川様より、企業の先端技術開発においてもゲームチェンジを起こす新技術の探索・創出と、 そこから出てきた新技術に基づく新たな価値創造ソリューションを生み出す方向性にシフトしつつある点、また、これまでの先端材料研究が、社会ニーズを先取りする形で長期スパンで進められてきたことなどをご紹介いただきました。
 清水様からは、日米の企業経営を比較すると、リスクシェアにより長期にわたる未踏技術開発に取り組んでこられたことは日本企業ならではであり、米国では一つの企業が多角経営をせず、社会として分散投資・分業が進んでいる状況をご説明いただきました。そうした企業の在り方の違いは、それぞれの社会がそれを良しとし形成してきたものであるものの、今後のイノベーション創出基盤形成を考える際に、日本においてもスタートアップと大企業で分業していくことが重要という見解も示されました。
 一方で、新技術への投資は、その技術の先が見通せないと投資は難しいという点について、目利きができる人材の確保・育成と、量子コンピューター開発者とそのユーザーになり得る研究者をつなぐ人材が必要であることを確認しましたが、実際にそのような人材育成の仕組みは整っているとは言えない状況です。特にシーズとニーズのマッチングは非常に難しく、双方の歩み寄りが必要です。研究インターンシップ等のテーマに採用することで、プログラムを活用してニーズ・シーズ間の歩み寄りが容易になるのではないかという提案がなされ、C-ENGINE研究インターンシップ活用の可能性が示されました。

 さらに、量子コンピューター開発においてユースケース探索は重要であるものの、ニーズベースでの探索の場合、既存事業の課題解決がメインになりがちである反面、ゲームチェンジャーとなるには、既存事業よりも新規参入や新規事業開拓でのほうが狙いやすいという点や、ニーズの事業性と量子コンピューターの計算能力がボトルネックになっているかどうかを慎重に検討する必要性の指摘がありました。これについて高椋様より、研究インターンシップなどを活用し、学生がストーリー・ロジックを組み立て、企業と議論する機会を作ることで、量子技術人材育成とユースケース探索の両面において前進の可能性があるという見解が示されました。

 最後に、フロアからの質疑応答では、量子コンピューターの用途と訴求、日本企業の風土を生かしたイノベーション、量子コンピューターのコミュニティ形成と今後の期待等について議論されました。

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